キミの知らない




千石さんが悪いんですからね。室町くんはそう何回も繰り返した。消え入りそうな声で。襟元を掴んでくる指が震えているので手を添えてやると、爪を立てられた。

室町くんが今にも泣きそうな声を出す理由。
彼曰く、気が付かないあなたが悪いんだ。彼曰く、あなたを選んだり止めたりを自由にできる女の子が悪いんだ。彼曰く、あなたなんかを好きになっちゃうオレが、悪いん、です。

「気持ち悪くてスミマセンね、でも、仕方ないでしょう」
「うん?気持ち悪いとは言わないけど」
「嘘だ、あんたいつもそうだ」

言い捨てると室町くんはオレから離れて背を向けた。落ちるみたいにずるずる座る。

「…無かったことにできませんか」
「それはちょっとひどいんじゃない」

サングラスの奥の目が恐らく、こちらを睨み付けている。もう一度言ってやる。忘れるべきじゃないだろ。

「卑怯ですよ、好きとも嫌だとも言わないクセに」
「んー…好きなんじゃない?」
「こっちがどんなに…」

ため息。普段ポーカーフェイスを貫いている室町くんが困ったり悲しんだりしているのを見るのは、少し楽しいね。怒られるから言わないけれど。
あなたが気付かないのが悪いなんて言われてしまった、だけど気付いていないわけが無かった。そういう風に見てくる室町くんの目線が好きだったし、たまに照れているんだかぎこちなくなる動作も好きだった。ね、気付いてないのはキミの方だよ。
もし室町くんが勇気を出したら答えを教えてあげるんだ、って、決めてた。だからそう、今がその時?

「室町くん」
「…なんですか」
「ちゃんと、キミが好きだよ、ホントにホント」

室町くんが動かない。唇が間抜けに開いていて、きっとサングラスの奥の目が今度は驚きで見開かれているんだろうね。
そっとサングラスを取ってやる。…そこにあった泣き顔が愛おしくなって、それから。