あの日この日の白い箱




去年のこの日もやっぱりみんながこうして集まって、その輪の中心はダビデだったね。遊びに来たバネさんが両腕に抱えてきた白い箱、そこから出てきたでっかいケーキ。小学生だった僕は、散りばめられていたフルーツがつやつや光って宝石のようだったことを、よく覚えてる。

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ったくダビデの奴、甘いモンが好きだってのは知ってたけど、去年のアイツの誕生日!確かホールケーキほぼ一人で食っちまったんだよな。そりゃあ部活してれば腹も減るけど、流石にあれには驚いたぜ。しかも晩飯もあの後普通に食ったとか言ってたっけ?おばさんの料理美味いからな、誕生日の夜ならさぞ良いもん食ったんだろうな。

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美味しそうに食べてもらうことが、作った人にとっては一番嬉しいことなのね。ダビデは勿論、オレたちみんなも嬉しい気持ちになれました。普段料理なんてしない奴らも一緒になってやったからあの時は大騒ぎが起きたけど、それはもうとっても楽しかったのね。

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聡の珍味が一番厄介だったよな。飲み物だけじゃなくてまさか食にも奇を求めだしたのかと心配したよ。ケーキの真ん中に入ってた…名前忘れたけど…それを一口に含んだダビデ。主導権は聡さんに…とか言ってたかな。バネがケーキにダビデの頭をうずめようとしたのを、剣太郎がギリで止めてたっけ。

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はは、懐かしいなあ。去年のダビデの誕生日、ねえ。甘いもの大好きな奴だから、って、樹っちゃんに教わりながらみんなでケーキ作ったよね。買い出し中にダビデに会っちゃって、オレが材料を急いで会計に行って、その隙にバネがアポロチョコ買ってやったんだ、面白かったな。

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ケーキの後にオレはダビに新発売の珍ドリンク勧めてやったんだ、そしたら樹っちゃんがやめるのね!ってよ。…まあ、生クリームの後に青じそジュースはな。やっぱチョイス的には洋の後は洋だよな、ミスったぜ。

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「あー…おめでとうう…」
アルミ箔が光るオジイの緑色の三角帽子。ちょっと借りて「帽子でげんこつを防止…」しかしバネさんの拳は脳天に容赦なく突き刺さった。
剣太郎の声が一番でかかった。
「ダビデー!14歳おめでとう!」
練習を終えたオレたちは、海辺の部室に煌々と灯りを点けて大騒ぎを始めた。オレの誕生日。誕生日、誕生…生誕…ネタを練っていると聡さんがペットボトルを差し出して言う。
「おめでとうダビデ!ホラ、これオレが調合したんだぜ!」
「止めとけダビデ、飲み物の色じゃないだろ」
亮さんがクスクスと笑う。普段は寧ろ飲ませたがる亮さん…これは上げて落とす展開と、みた。
「そうそう、淳からメール来たって?見せろよ」
淳さんのメールは普段とうって変わって、絵文字がぎらぎらしていた。サエさんがそれを見て、オレと同じくぶふ、と噴き出した。
それからオジイがオレのラケットを徐に取り出す。新しいグリップが貼られている。
「これでぱわー、二倍よぉ…」
「サンキューオジイ」
握り具合を試す。手にすげぇフィットして、テニスするにはもってこい…
を、言おうとするとバネさんの大声がオレを呼んだ。
「ダビデー!」
その手には白い箱。白くて大きい、四角い箱。去年のこの日を思い出す。生クリームたっぷりで、フルーツがつやつやしていた、ホールケーキ。箱を手渡される。
「おめでとさん!」
「ケーキとは…景気がいいですね…ぷ」
「ハイハーイ!それ去年も聞きましたー!」
剣太郎の茶々が入る。バネさんに叩かれる。「バネさんちょっ、タンマ!」「うるせーこの、ダビデがっ!」
「ホラホラ。二人とも止めるのね。ケーキ切りますよ。サエ、お皿ちょうだいなのね」
「…エッ、全部オレのじゃ…」
「ダービデー!」
みんなの声がオレを合唱する。冗談だと言うとバネさんに頭をがしがしと掻かれた。


ケーキの色は、記憶をなぞるような白。ミカンやらイチゴが電気の灯りを受けて光っている。特別大きく切り分けられた自分のそれにフォークがふわりと刺さる。
「うお、美味い!」
「ヤッター!」
甘酸っぱいイチゴがぴりりと口内を舐めた。少し、照れるけど、
「みんな…ありがとう」
どういたしまして、明るい笑い声が弾んだ。
「サンキュー、ベリー、マッチ」
「マジでつまんねえ!」
イチゴを差し出すとバネさんに蹴られる。
それからプレゼントやら、やっぱり聡さんのドリンクを飲む羽目になるとか、とにかく楽しいその大騒ぎはしばらく続いた。
潮風が冷たく感じる頃には月がでっかく光っていた。誰も帰ろうと言い出さなくて、可笑しくって嬉しかった、初冬のそんな思い出。








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