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泡になった恋
ハウ。 わたしが心の中で呟くと、5回に1回くらいあなたは振り返る。不思議そうに辺りを見回す。首を傾げる。 わたしは彼の腰にくっついた球体の中で泡みたいにくるくるまわりながら笑う。もしくは3歩後ろを歩きながら、鳴いたりしないように気を付けながら笑う。 ハウ。好きよ。ハウ。 水面は太陽の光を浴びてきらきらと輝く。わたしは、それをわたしたちだと思った。どんなに傷ついてもハウの指が撫でてくれる。てのひらが治してくれる。その腕に抱いてくれる。 だから、だからわたしは輝いていられると、戦っていけると思って、生きている。 (気付いて。わたしを追いかけて。見つめて、) 「アシレーヌー」 「アシレーヌ、マラサダ食べよー」 うとうとしていたわたしの意識に柔らかい声が降り注いだ。外へ出てみると噴水広場のマラサダショップ。マラサダは苦くて美味しくて、水がさやさや流れていて、とっても好きな場所。 「はい。一緒に食べようねー」 きらきらきら。どうしてひとの笑顔って、ハウの笑顔って、光っているのかな。 おんなじものを一緒に食べるって、幸せだな。幸せ。すごく幸せよ。 “にんげんに恋した水ポケモンは、想いが遂げられないことに気が付くと水に溶けて消えてしまうのです” わたしのこころをサッと通過したのは誰の歌?言い伝えかな。絵本だったかな。誰かの噂話かしら。わたしたちの歌だったか、それとも遺伝子が言うのかな。 にんげんの声をもらうことができなかったわたしは、想いを遂げられないかしら。 (ハウ。気付いて。好きよ、あなたが好き) そっと顔を近づけてみる。そっと、なにも壊さないように。わたしから触れたりはしないように。 気付いて。愛してるって教えて。わたしの気持ちを見つけて。 マラサダの味がするかしら。あなたのくちびるはわたしに言葉を与えてくれるかしら。だけど、わたしから触れてしまわないように。こわしてしまわぬように。 「甘えんぼだなー。アシレーヌおいでー」 ハウの腕。大好きな腕がわたしを取り囲んでぎゅっと抱き寄せる。火傷しそうなくらい熱かった。抱きしめられて、幸せ。 そうよ。わたしは、あなたの大切なポケモン。 すくいあげてくれるかしら。わたしが透明になっても。この噴水に消えてしまっても。きらきらと空気中に放出されてしまっても。 やさしい腕をすり抜けて、バブル光線をそっと吹き付けた。 「わー!なんだよー、アシレーヌ、痛かったのー?」 ごめんよー。と、困ったようなあなたの笑顔、弾けていく泡に吸い込まれるみたいにゆらゆらと揺れる。 パチン。パチン。わたしはあなただけのわたしよね。王子様のキスが与えられなくても。わたしが泡になってしまっても。 song by Mayumi Kojima
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