白く笑む




「あー」
隣を見上げると、口をぽかんと開ける石田鉄。
「なに」
「雪降ってきた」
あ、ほんとだ。曇天、うなだれた東京に白い雪。
「やだなあ冬なんて。ただでさえ寒くてたまんないのに雪まで降ってくるなんて最悪、傘も持ってないし」
「俺も夏の方が好きだな」
「夏は夏でベタベタしてきもちわるいし」
ふうう、吐いたため息も白く、消える。
「深司はワガママだなあ」
「いいじゃん別に」
黒いウインドブレーカーに雪がつぶつぶと実る。溶けない、染みない。
「明日の朝練は雪かきで潰れちまうかなあ」
「初雪は積もんないとか言うし平気じゃない?」
「だといいけど」
「て言うか石田、冬くらい髪の毛伸ばせばいいのに。寒々しい」
「いやあ…俺実は天パで、すごいことになっちゃう…とか言ったらどうする?」
「ベタすぎ」
「あは」
「または伸ばしてパンチパーマにでもしちゃえば?大仏とお揃い、趣味に合うね」
「いや勘弁」
笑い声も白くなる。石田は空を見上げる。
「あー」
「なに」
「息白いなー」
「今更」
石田はまた笑って、それから「積もってる」なんて言って、俺のウインドブレーカーをはたいてきた。
今更、だけど今度は言わないでおいた。手袋の無い、大きいてのひら。
「石田って、悪い奴じゃないよね」
「遠まわしだなあ」
白い雪、白い息。
冬になれば夏が恋しい、夏になれば早く冬になれ、だなんて。
「うわっ結構降ってきた!走れ深司!」
「転ぶよ」
言わない言えない。
騒がしい日々を、自分がこんなにも大事に思うようになっただなんて。
言えない、…言えない。