花火の冬




午後7時、厚着に花火というミスマッチを纏って俺たちは集合した。
11月22日。ダビデの誕生日を祝う為だ。


「ううー寒いよおー!なんだって冬に花火なのさ?」
歯を鳴らして寒がる剣太郎に、寒中花火大会言い出しっぺのダビデが鼻をこすりながら答えた。
「はなびず垂らして花火する…ぷっ」
「そんっなくだらねぇダジャレの為に花火したがったのかオメェは!」
にやりと微笑む奴の胴体に一発くらわせる。うっ、と唸る。

冬の海は流石に寒い。幸運なことに風は無かったが、首藤は手袋までしていたし、亮はマフラーに埋まっていた。
サエは何のつもりか大量の花火に火を付けて喜んでいる。

「サエさん、サエさんそれヤバいって!」
「虎次郎が花火を誇示する…」
「つまんねぇんだよこのダ「ダビデ、ぶつよ」
「…ごめんなさい」

冬だ。冬が終わったら春。その春、俺たちは卒業する。
昔のように、みんなでずっと一緒にいることを信じて疑わないでいたかった。
でもそれは有り得ないと理解する年になってしまった。
ずっと一緒に過ごしてきたダビデ。でも、小学生と中学生だったときのように、中学生と高校生は遊べない。



「バネさん」

ダビデがいきなり肩を叩いてきた。振り向くと、手持ち花火を1本持って立っている。

「火、ちょうだい」

返事も待たずに、俺が持つ緑の炎に自分の花火をくっつけた。触れ合った薄紙からのぼって橙が、はじけだす。
コートの裾と裾がくっ付く距離で、凍るような冬の海。暖かい火の色。何も心配要らない筈の、変わらない距離。
「オレんちの花火はオレンジ…ぷ」
「だああ!さみーんだよダビデ!!」
変わらない距離。何も心配、要らない。




定番の線香花火で終了。灯りの無い海岸は本当に真っ暗だ。
「バースデーケーキのろうそく、吹き消したあとみたいだね」
サエがぽつりと言う。確かに、と樹っちゃんが相槌を打つ。

「ダビデおめでとー!」
剣太郎がいきなり声を張った。
そうだ。まだアイツは14歳で、俺は15歳だ。今まで過ごしてきた時間より、未来は長い筈。2年も経てば高校生と高校生。あっという間に大学生と大学生。大人と大人。



「花火の束…花束」
「枯れてるっつの」
すぐ近くの部室から懐中電灯を持ってきて、みんなでいそいそ片付けを始めた。
「ダビデ」
「ん」
「誕生日、おめでとう」
「…プレゼント、くれねえと……あっバネさんごめ…!」

何も心配要らない。
1年の年の差が埋まらなくても、この距離ばかりは変わらない。
白くなって溶ける呼吸。冬はまだまだ始まったばかりだ。まだ時間はある。一緒に、居られる。