オレンジ色は甘ったるい




自分の誕生日を喚くようなことはしないが、祝って欲しくない訳でもない。この日はいつでも世間はオレンジ色に浮ついていて、自分が入り込むことが許されないような気もしていた。
ハロウィン。10月31日。
去年の彼に貰ったものといえば、彼の髪と同じ色のアルミ箔に包まれたチョコレートだけだった。
「今日、室町誕生日なんですよ」
「エッまじ?…ううん、じゃあこれ、あげちゃう!」
喜多と千石さんの会話をぼんやりと思い出す。覚えてくれているなんて期待、しないけど。それに千石さんはもうとっくにテニス部を引退したのだ。わざわざ来ることなど無いだろう。
チョコレートの甘ったるい味を思い出す。恋しいと思うのはエゴだ、認めたくない。それでも「もしかして」を口にしそうになるのだから、都合の良い脳みそだ。


「ヤッホー」
澱むいちにちの夕方、部室にまさかの来客が訪れる。もしかして、を呟きかけてそんなバカな、と書き換え。
「お久しぶりです、千石さん」
「やぁやぁムロマチくん。調子はどう?」
「ボチボチです」
またまたご謙遜を〜、と背中を叩かれる。相変わらず千石さんは千石さんで、懐かしさやら安堵やらが押し寄せる。
「部長業はどうなの」
「南ぶ…南さんには程遠いですけどね」
それからそれから。他愛無いことばを二言三言。じゃあ練習始まるのでこれで。オレがそれを言いかけると
「室町くん」
オレンジ色がきらり。手渡されたファンシーな紙袋には、ハロウィンの菓子が詰められていた。
「今年は貰い物の余りじゃないよ、プレゼント。ハッピーバースデー」
「思いっきりハロウィンじゃあないですか」
「まあまあ、日付上こうなるでしょ。…っていうかもっと喜んでって!」
ずしりと重みがある。そんなに菓子類が嫌いな訳ではないけれど、なかなか自分にはボリュームがある。
「ありがとう、ございます」
「いやいや、こんなんで許してね」
ところでこの人はこの紙袋の店に一人で入って買ったのだろうか。オレなら絶対恥ずかしいですけどね。
たとえハロウィン色のものだって、あなたからもらったんだ、あなたは覚えていてくれたんだ。インパクトに負けていた驚きや喜びが遅れてやってくる。千石さんに祝われてしまった。
「ありがとうございます」
「あっ!ムロマチくん笑ってない?」
「別に笑ってないです」
「いやーもう完っ璧、笑ってるな。先輩にはバレちゃってるよお」
笑ってないだなんてそれは勿論ウソで、更に涙腺までもが危うい。我慢する。我慢する。


じゃあね、と千石さんは帰っていった。膨らんだ鞄にはやはり今年もハロウィンが詰まっているのだろうか。あの人はどこまでもあの人らしい。
包み紙を解くと甘い香りがした。口の中で嬉しいのやら照れるのやらを溶かして、それからコートへ向かうことにする。
この時は千石さんがまだ帰っていなくて、他の部員や先輩たちとオレに手荒な祝福をするだなんて想像するにも到らなかった。