運命の人




女の子は運命の人を見分けることができるの。マメパトのさえずり、ベルがころりと笑って言うのを思い出した。

1・運命の人は白馬の王子様の形をしていません。
「…手、繋いでも、いいかな」
2・ゼブライカやギャロップを乗りこなせるとは限りません。
「…怖いんですか?」
3・強靭な肉体や精神をもたない場合もあります。
「こわ、くないけど、ほら、いいでしょ」
4・それでも彼はあなたを必ず愛し守り通してくれるでしょう。
「トウコ、手を繋いでも…」

不安そうに口元だけを笑わせて、ナツキさんが私を見つめる観覧車は空の上。
私はナツキさんの手を取るの。彼が運命の人だと知ってしまったから。


強がりな人。怖がりな人。だけどそれを克服しようとする真っ直ぐな人。ナツキさんは純粋だ。初めて会ったときと違わない強さと弱さ、優しい態度とぶれない矜持を変わらず抱えていた。
エリートトレーナーの通り名に相応しくあろうとする姿勢、とても好き。観覧車の中で震える肩が好き。細い声音が大好き。
ライモンの夏が日差しを目一杯送ってくる。じわりと暑くなる小箱の中で、汗ばむてのひらを絡ませて、毎日毎日。出会ったあの日から運命を紡いでいるの。毎日毎日、ナツキさんに恋をする夏。


「風が強いですね」
「…ん」
「ナツキさん怖い?今日も手を繋いで欲しい?」

そういうとやや恥ずかしそうに悔しそうに顔を少し背けてしまう、九時。ナツキさんの強がりは十一時まではもつ。無駄よ、一番上まで来てしまえば、あなたは私に手を差し伸べなくてはならないの。
風にあおられ、ぐらりと部屋がなびく。ナツキさんの膝が笑ってる。ふふふ、こらえきれずに漏れてしまう笑い声、ナツキさんが上目遣いに私を見ていたから。

「トウコ、あの…」
「ふふ、手を繋いでもいいですか?」
「…ありがとう」

冷や汗のてのひらが私にしっとり馴染んで収まる。私の手、きっとあなたの為に作られたのよ、あなたと手を繋いで離れられないように作られたのよ。

「トウコ」
「なんですか」
「アナタはきっと私のことを、情けない男だと思っているだろうな」

俯いたナツキさんが悲しそうな顔で言う。素直な彼は表情が本当にきれい。悲しい時に悲しい顔が出来ることって、素敵なことですね。いつかこんな風に些細な事を気にしだしたら言ってあげるんだ。

「思ってないよ。ナツキさんの情けないところ大好きです」
「えっ…アナタ変なこと言うね」
「ナツキさんと手を繋ぐのも大好き」

顔色を伺ってみると、思った通り照れてしまって真っ赤だった。言ってしまえ。とどめ、不意打ちの決定打。

「ナツキさん、大好きです」

王子様じゃなくても、馬どころか観覧車も一人で乗れなくても、弱虫でもいいの。だってナツキさんは運命の人だから。私を愛して守ってくれるの、きっと、ずっと。

「ナツキさん、私を好きになってくれる?」
「…大丈夫だよ、…ずっと」
「え?」

もう片方の手が、握り合うてのひらを包み込んだ。
「最初に会ったときからずっと、トウコのこと…」



観覧車がもうすぐ地上に降りる。思いが通じ合ったのに、勿体無いくらい私たちは黙りこくっていた。

「ねえ、恥ずかしいこと言っていいかな」
「聞かせて」
「トウコのこと、運命の人なのかな、なんて、思っていたよ、ずっと」

赤くなって照れ笑いをするナツキさんの言葉に叫んでしまいそうになる。
女の子は運命の人を見分けることができるの。おまじないみたいな言葉を胸の中で反芻した。

「嬉しい、私も!」

抱き付くとちょっとよろけて、観覧車もぐらぐら揺れる。ナツキさんの悲鳴がおかしくって愛おしくって、だから今日はもう一周、お空でデート、いい?