あした




わたしの明日はもうここにはない。
自惚れすぎだと、考えなさすぎだと、自覚している。わたしが一番よく分かっている。アカギさんへの気持ちは露呈することの無いように。そのこともよく、分かっている。
彼の明日とわたしの明日は同じ場所には無いので、わたしのものは要らないです。アカギさんの宇宙はアカギさんだけのものだから。届かないところにあるから。


ギンガ団が崩壊したのは数時間前のことだった。高い昼間の太陽を消し去って、ゆがんだ時と空間を彼が作り出した。町が呑まれる、空が割れる、時間が無くなる。シンオウ地方に降りかかったその災いは、しかし除かれることになる。アカギさんの力を打ち砕く強さをもって、わたしの友人がシンオウを救うこととなった。
意思、感情、そして知識。彼のもっていたもの、もたなかったもの。アカギさんは感情を不完全なものと説いた。
もたざる者の詭弁よ。そんなの。・・・口に出さないでおいたその言葉を今こそ言ってしまう。だってアカギさんはもういないもの。
愛情とは感情で、彼に言わせれば不完全なもので、わたしに言わせれば逃れられないものだった。アカギさんが好き。あいしてる。それが世間知らずな小娘のすべて。逃れられないもの、でした。アカギさんが大好き、好き、これは恋!

「アカギさん、大好き」

空が紺色にぼやけている。夜が深くなっていく。ついさっき壊したポケッチ、もう誰もわたしを呼ばないように。

「アカギさん、大好き、アカギさん、大好き、好き」

テンガン山のともし火を全て消して、モンスターボールを足元に揃えて、暗闇に包まれていく。夜が深くなっていく。

アカギさんが居なくなってしまった数時間前の出来事をまぶたの裏でそっと思い出す。宇宙が彼をさらっていったこと。帰ってこないこと。彼の明日。
アカギさんが優しくなかったことを思い出す。アカギさんが優しかったことを思い出す。アカギさんのコーヒーの香りを思い出す。アカギさんがわたしを厄介者扱いしたことを、笑わなかったことを、怒ったことを、追い出さなかったことを、無視しなかったことを、ポケモンを褒めたことを。ゆっくりと、ひとつずつ、思い出す。思い出しながら、思い返す。アカギさんを好きだった一瞬一瞬のことを。わたしのこれまでの宝物。一生に一度の恋。嬉しかったことを、悲しかったことを、楽しかったことを、ぜんぶ、ぜんぶ。何度も繰り返し思い描いて忘れることのできなくなったわたしとあなたの全て。

大好きってこんなにこんなに素敵なことですよ。あなたにも知ってもらいたかったな。もっと早く気付けばよかった!って、あなたの悔しがる顔が見たかった。絶対しないでしょうけどね。


彼の明日とわたしの明日は同じ場所には無いので、わたしのものは要らないです。

「アカギさん、さよなら」

あのとき言えなかったことば。最後に交わした言葉ってなんだったかな、時間を戻していく。空間をすり替えていく。
ここは宇宙ではないけれど、暗闇にわたしも身を包んで、アカギさんにどうぞ安息の明日が訪れますよう、わたしを忘れないでいてくれますよう、アカギさんの宇宙に散って、星になって、彼の、光に、なれますように。