光の脈動




人の目は明るい場所にすぐ適応するのだ。暗闇になれるまでには、些か時間がかかる。

最後の場所・テンガン山…槍の柱には行かなかった。というか行けなかった。アジトの番を命じられたのだ。
彼の一番近くで戦ったという2人の女幹部と私と。果たしてどちらがより大きな信頼を得ていたのだろうか。現場最前線と本拠地管理と。
まあ今となっては意味の余り無い話だし、ここに残っていて良かったと思わなくもない。ギラティナという未知の存在は少し恐ろしくもあったしそして何より、ボスの真意は。あの方の。あの博識で聡明なボスの。
槍の柱での出来事を帰って来たマーズ・ジュピターにみんな聞いた。
後からあの、最後までギンガ団と戦い続けた少女にも色々と聞いた。
感情の無い世界、それが彼の望みであった。しかしその時の彼の感情の高ぶりを聞いたときに私はやはり、と思った。
この一連の計画は、感情無しには成し得なかったものだ。私たち団員の感情を巧みに操り。彼は感情を否定していたが、いつでも野心に燃えていた。感情を無くすため、感情を爆発させたテンガン山。
あの矛盾たちが割と好きだった。心地よい波にさらわれていくようで。

彼は何を思いどんな人生を歩んで来たのか。今では知ることも出来ない。
全てを知りたくて、見極めたくてあの方の傍を歩んできた筈なのに、結局手元にはこの大きな組織の抜け殻だけが残った。
今はそれを、あの方の忘れ形見を、光ある世界に導いて行くくらいが私の仕事だ。

私たちは光に適応するだろう。世界は、闇だったものをすぐ見極められないだろうけれど。
きっと世の中で感情の無い世界を望んだのは彼だけなのだろうな、闇を歩くことに慣れてしまった彼だけなのだろう。

どこまで行くかは決めていない。彼のような力を私はもっていない。
ただ穏やかな日常を、平和なシンオウを、このままにしておくのも良いかなと思った。
そう言うとマーズもジュピターもしたっぱ達も、例の少女も、誰もが優しく笑ったものだった。
この穏やかなる感情を、もし彼が知ったのなら。

闇に慣れるには闇を歩き続けるしかない。だけど誰しもが光にはすぐに適応する。
彼の網膜にこの光を焼き付けてやりたいと、私は心底思った。