旅立ちのお話




まるで風のようなあなたの今回の登場も、また風のようでした。



「オレ、もっと強くなりたい!」

彼はシンオウ最大のバトル施設・バトルフロンティアを全制覇した。
そして今。殿堂入りしてシンオウの覇者となった筈のわたしも、色違いとかたまごとか研究している間に、グングン強くなっていった彼に負けてしまった。
そのバトルの後、わたしにとってのさながら死刑宣告。

「海の向こうに行くよ。外にはきっと強い奴がたくさんいる!オレはもっと強くなりたいんだ!」

そう言った彼の瞳には決意とか強さとかそういうきらきらしたものしか見えなかった。
頑張って。行ってらっしゃい。そんな風に言おうと思っていたら、せっかち君に先を越される。わたしたちの会話は大概一方通行だ。

「なあ、ヒカリも来いよ。行こうぜ行こうぜ!一緒に!」

わたしの手首を掴んで破顔一笑。この笑顔が本当に大好きなの、わたしは。
だけど駄目。やることがこっちでたくさんあるから。そしてそれ以上に、彼とずっといたらいけない気がするのだ。
小さい頃からずっと一緒で、一番の友達なんだけど一番の好きな人で。だから傍にいたらきっと告げたくなるだろう。それは彼にとって、彼の夢にとっていらない感情だと思う。わたしの中で一番神聖で尊くて大切な感情だけど。 彼が彼の満足する最強のポケモントレーナー。それになれたときにわたしは初めて告げようか。最も彼の言う通り、ポケモンに終わりはないのだけれど。夢路は永遠に続くかもしれないけれど。 そんなことをごちゃごちゃ考えて、頭の中が混乱して、なんだか涙が出そうになったとき。

「ヒカリ、お願いだよ、一緒に来てくれよ。お前が居ないのって変な感じするしさ」

はにかんで赤くなって頭をポリポリ掻いた後、あろうことか彼はこう言ってのけた。

「だってオレ、ヒカリが好きだからさ!」

一瞬の思考停止、沈黙。頭は真っ白、目の前には金髪の彼。
どうしようか考えていたら、お決まりのセリフを吐いて行くジュン。

「もうっ!いいから行くぜ!今日中に出発!オレんち集合!遅れたら罰金100万円な!」

…走り去る彼に、気持ちはいつ告げられようか。ただひとつだけ分かるのは、これから始まる旅がとても素敵だということくらい。
一緒に、たくさんを見つけよう。大好きなあなたと。



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