隣同士




もう駄目だろうな、と思いながら恋をする他人の気持ちなんて、きっとアンタにはわからないだろうな。
そもそもいつから始まってしまったのかすら思い出せないような、先天的な機能みたいな、そんな気持ちなものだからわたしは途方に暮れてしまうよ。ネジの傍に何年も居たせいで、何もかも知っているような、理解してもらえているような、親近感よりももっと図々しい距離を作って、そのうえ、勝手にそれが許されているものだという気がしていた。
無意識で、前提だった。私の体に無くてはならない恋なのだ。

野営の炎がぐらぐらと揺れて、一瞬陥った眠りが消し飛んで行った。冷たい風が頬を殴って逃げる。慌てて炎にてのひらを寄せて暖をとる。
思い出のイメージが一瞬の夢になった。砕いて飲み込んだ筈の恋が、ふとした時に蘇るのだ。
ずっと好きだったのよ。テントの中で仮眠をとっているであろうネジ、ネジの姿をぎゅっと胸の中で抱き締める。
近すぎて、時間が余りに多すぎて、だから素直に言えそうもないんだろうな。この分じゃこれからも駄目なんだ、きっとそう。
なんだか力が抜ける。こんなことばかり考えて任務に集中できなくなったら、わたしがここに居る意味が、ネジの傍に居る理由すら、無くなってしまうようなものなのに。
力が抜けた拍子に、暖をとっていたてのひら、指先が炎に触れそうになる。

「おい!火傷するぞ!」

突然肩を掴まれて、バランスが崩れて後ろ向きに転ぶ。驚いて速く打ちだした心臓に手を当てながら、おずおずと顔を上げるとそこにはネジが居た。

「あ、ありがと・・・ゴメン」
「別にいい。もう交代だから、お前はもう休め、テンテン」

隣にネジが腰を下ろした。無防備な距離。何もかも知っているような、なんてのは本当はあり得ないよね。知っているつもりでいたけれど、ほら、こんな些細な一瞬なのに、今ネジが何を考えているのかわからないや。私の思っていることだって到底伝わりそうにないでしょ。

「分かった。・・・あのね、ネジ」
「なんだ」
「私がネジの考えてること分からないのと同じように、ネジだって私の思ってることきっと1つも分からないからね」

なぞなぞみたいになってしまった捨て台詞を吐いて、少しの間だけ眠るため、テントへ足を急がせた。


息を吸うのと、心臓が速くなるのと、ネジが好きなのはみんな一緒。
ネジが隣に居るのは、私が生きてるのと同じことなんだよ、図々しい距離で、近すぎる隣で、わたしはこれからもそう思い続けるよ。
これから伝えることはできないかもしれなくたって、息が吸えなくなっても、心臓が止まってしまっても、ネジが好きなのはずっと一緒、かもね!振り返るとネジが首を傾げていた。炎に照らされたその姿を、そっと焼き付けてから今日は眠るよ。