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宮風

1.恋に依存
胸が高鳴るなんて馬鹿馬鹿しい。
そう思っていた。恋なんてどうでも良いと思っていた。
奇妙だった。
彼の黄色い髪、明るい緑の瞳、褐色のなめらかな肌、すらっと伸びる手足、オレを呼ぶ声は甘く空気を震わせる。
お前のすべてがオレを粉々に砕こうとしている。くるしいんだ。胸が痛い、涙が出そうになって呼吸が詰まる。くるしいんだ宮坂。
「風丸さん、こんにちは!」
ああその声、オレがこの世で一番好きな。
胸が高鳴るなんて馬鹿馬鹿しい。そう思っていた。
それなのに今はこの苦しみをオレは求めている。好きなんだ宮坂、お前がいないとダメなんだ。

2. 世界の終わりにひとつだけ
結局何もかもが偽物で、愛なんてなくて、この世は虚しいことで一杯だ。それでも僕らの世界は廻ることを止めたりしない。僕が嘆いただけでは、何も何ひとつ、変わらない。
愛なんてないと言うのなら、果たして僕があなたが一緒に存在する必要は無いのだけれど、だけどそれでも僕はあなたを信じたい。だって僕らが互いを失ったら、何も残らない。そうでしょう、信じられないくらいに僕はあなたで、あなたは僕なのだ。
だからそう、風丸さんと僕という完璧な、まことの愛を得た唯一無二の、僕たちならきっと!
腐敗しきったこの世の終わりに僕たちの精子と精子は絡み合って世界が始まる、ああ、斯くあるべきだ。早く風丸さんに教えてあげなければ!

3.遭難
がらくたと名付けられたそういうものたちでできているその海、オレは沈黙していた。宮坂は橙色に濁った空を見詰めている。
兎に角至極残念であるのはここに地図コンパス携帯電話といった類のものが存在しないこと。オレも宮坂も空腹であった。
橙は淀んで向こうの山に沈むのだろう、星空はああきっと、綺麗だろう。
「風丸さん、寒くないですか?大丈夫ですか?」
「ああ、宮坂は?」
「平気ですよ」
宮坂の金髪がなびいて涼しい。腕を伸ばして小さいからだがオレを抱き締める。やわらかい、あたたかい、いきている。
「怖くないですか?」
「…宮坂とこうしていられるなら」
遠く遠くの街灯り、閉じてゆく夕景、がらくたの海、宮坂の唇。
まあ善いか、きっともう、帰るべきではないのだ、むしろ。宮坂の瞳だけがオレには見えた。

4.理想でおわり
僕はこの手を離してしまいたかった。いつからかそう思っていた。
憧憬は真実じゃない。それは理想でしかない。あなたは僕のヒーローでした。憧れが大きくなりすぎて、本当のあなたがとてもちっぽけに見えました。ごめんなさい。
想いを遂げてから気付くだなんて、タイミングが悪い。違うかな、側にいるから分かってしまったのかな。
僕を愛してくれるあなたが、どうか早く僕を嫌いになりますように。祈る日々です。風丸さんがが僕を好きになりますように、と願ったこともあったのに。
僕の真実を知らないあなたが僕を愛す。かったるい。

5.ふらふら
僕の愛がちっぽけなことをあなたは何も言わないけれど、もうそろそろ終わりにしようか、僕はいつでも準備していた。
あなたの口付けを拒んだら風丸さんの傷付いた瞳、僕はそれを見つめて、あなたの弱さというか、あなたは僕を愛してくれているの。
その愛に僕は報いるべきでしょうか。何も分からないです。あなたが好きだと言えば嘘、あなたを嫌いと言えば嘘。
「風丸さん、僕からさせて」
そう言って口付けるとあなたは安心したように笑うのです。僕はその笑顔に安心するのです。その笑顔であなたを好きになったことを思い出すのです。
風丸さんのことを考えない日はもう無いです、無いのだからやっぱり僕はあなたが好きなのでしょう。愛はちっぽけです。どんなにあっても足りないのです。
あなたの手のひらを手放すことなんてもうないのかな、終わりを見通せないから終われるだなんて詭弁を吐けるのでしょう。もう止め。代わりに言いたい。あなたを愛してる。言いたい。

6. 死因
風丸さんにキスしたらほっぺた思いっきり叩かれた。血の味がする程。直後ごめんって謝られた。もう一回キスしようとしたら突き飛ばされて、あたま打った。ごめんとはもう言われなかった。風丸さんが僕のこと死なせてしまう位キスしたい。風丸さんが僕のこと好きになる前に死んじまいたい。

7. おっしまい
窓ガラスが破れていた。空は砕けて死んだ。恋したことなど忘れてた。僕はあなたをぐっちゃぐちゃ。血だね。せかいは終わるからこの際なんにも関係なかった。僕の秩序は無秩序らしかった。知らない。風丸さんはイヤダー、と、か細かった。僕はそんなので笑える。拙い爪唇拳指足はあなたを好きでした。道は渇いていた。人が潰れてた。世界が終わるとウソみたいに。些か頭が終わってる。風丸さんに会いたい。

8. 赤い糸が
昨日風丸さんとキスをした。女の子ともしたことないようなものだった。風丸さんの唇はあたたかくてやわらかだった。好きだなと思った。
男と恋人だなんて怖かった。友達にも母さんにも言えるわけなかった。好きになったのは僕が先だったけど。
風丸さんはどうだろう、どうして僕を好きでいてくれるのかな。内緒にしているのかな。怖く、ないのかな。
だけど僕は今日、きっと風丸さんに何も聞かないでまた口付けをする。言葉にできないもどかしさは、付き合ってもそうでなくても変わらない。何もかも共有しない苦さを疑心にしたくはないのに、綻びはそういうところから始まるのだろうか。永遠に風丸さんが大好きだと信じているのに。

9. 震える答え
「僕たちがおかしいんじゃなくて、ですね」
息を、ふうっ、と吐くごとに、出したくない声が漏れるたびに、宮坂はニィと笑うのだ。
「風丸さんと僕の子どもは生まれないし」
その声が好きなんですよ、と宮坂は前言っていた。
「僕たちは只きもちいから、好きだから、こんなことしちゃうんです」
サディスティックを着こなした宮坂の視線に舐められる。彼の指先は俺を全部知っているみたいに振る舞う。
「よね?」
「ん…っ」
声も出ないような瞬間が波形を描くように訪れる。彼の声に指先に全てに震えることしかできない俺に、できることといったらひたすら頷くことだけだった。
答えは一択だ。宮坂から離れたくない。もっと傍に居たくて、触れて欲しくて、ひとつになりたかった。
好きだ、大好きだ、と、舌足らずな俺の声が熱を帯びて空間に這う。

10.清掃
あ、笑った。
あおいポニーテールがうねる。なんで髪伸ばしてるか知りたいけど、またはぐらかされるから止めよう。
机に椅子が積まれて教室の片方に寄せられていた。Tの字のほうきの毛を床に押し付けて窓の外を見ていたけど、口やかましい女の子が何やら言うので掃き掃除に使うことにする。
憧れていた。いる。それから好きでした、大好きです。
あなたの居ないトラックのスタートラインを払い消して立ち尽くした昨日の僕の誰も知らない泣きっ面。
人に教えないうちに忘れちゃえよ、こんな気持。毛が寝てしまったほうきで必死に床を這う。掃いて棄ててそうしたら僕は?
あなたは?

11.教
忘れたいのに忘れられなくて忘れてはいけない、罪である、僕があなたを欲しがったことはひとつの罪である。あなたからの愛を求めた瞬間許される機会を永遠に失った。そして無くすのだ、昇華された途端この世に暴露された僕の背徳に愛は殺される。そうだ。あの人は犯されてはいけないものだ。あの人はあの人は、風丸さんは。

言葉が届かないことをどうか

12.ぜつぼう
僕の気持ちはこのまま時間をかけてぶくぶくと沈むだろう、溶けるだろう、それまでは、それまでは、どうか無くすことのないように、唇の中で、隠しておくのだ、零さないように、ひとりで。
風丸さんのことなんて忘れるに決まっている、忘れられるに、決まっている。
「好きです」
だからきっとずっと言わないと誓っていたんだ。嫌われる筈だから、守っておくのだと。
それでも溢れてしまったのはどうしてかな。どうして、好きになったのかな。風丸さんから注がれる痛い視線を僕は絶望的な気分で受け止めた。

13.独裁者
全部欲しいです、全部、全部。風丸さんを好きであるという、これはその我が儘です。あなたの全てを独占したい、欲、欲望です。
僕の脳は溶けてぐるぐるあなたの形を造るでしょう。僕は堪らないのです。何もかもをあなたに食べてもらいます。良い夢も悪い夢も淫らな夢も全て一緒です。
目を閉じてあなたを見つけて、僕は風丸さんを独り占めできたことを神様に感謝しますね。
「宮坂、宮坂を、宮坂だけを愛してる」
僕の声帯、僕の唇で、風丸さんが笑いました。「僕もですよ」。僕もです。

14.枕辺のピュア
同じ毛布の下で寝息をたてる風丸さんを抱き締めた。静かな夜だった。寝間着の下に手を這わせると、ゆっくりと体温が混じっていく。僕の冷たい指が風丸さんの36℃を侵略する。
こんな幸福を夢でしか見たことの無かった中学生の僕に是非教えてやりたい。僕の愛情がいつしか風丸さんの心に届くことを。風丸さんの愛情はいつしか僕の命になることを。
ふふ、思わず声を出すと「はやく寝な、宮坂」寝言か正気か分からないけど、風丸さんが優しい言葉を零した。
「おやすみ、風丸さん」
少し開いた大好きな唇にそっと「あいしてる」と注いだ。

15.固結び
「風丸さん、嘘みたいで本当のこと言いますね」
なんでもない帰り道、宮坂が突然俺の手を握る。恥ずかしいから止めろと言っても笑って誤魔化すばかり。笑顔にほだされて仕方なく誤魔化されてやる。
「僕ね、風丸さんが世界で一番大好きなんですよ。……ね、嘘みたいで本当のことでしょう?」
「世界で一番が俺でいいのかよ」
「いいんですよ、ホントなんだから」
宮坂がおっきな瞳で見上げてくる。変な気でも起こしたかとも思ったけど、宮坂ならまんざらでも無いとよぎった自分の方がよっぽどかな。宮坂が離そうとした手のひらを、今後はこちらから強く握った。







マサ蘭

1.捕食活動の音声調査
「センパイはさぁ、結局なんなの」
「…それはこっちのセリフだ」
「イヤよイヤよも?」
「お前、オカしいんじゃないか」
「だってヤりたいって言うヒトにさ、わざわざ着いてくるなんて…何?和姦て認識でいいワケ?」
「…死ね狩屋」
「霧野センパイア○ル狭い?」

2.こどものじかん
「だっる」
「…なんて言う割ちゃんと来れたな」
「だって霧野センパイがウソ教えるから」
ウソだなんてとんでもない。ミーティングに前回遅刻した狩屋には、今日は開始時間の30分前に来てもらうようにしたのだ。集合時間が早くなったと言って。お陰で狩屋は今回正規の時間に遅刻せずに済んだ。
…と、説明すると狩屋の頬が途端膨らむ。
「なんだよその顔、ガキじゃあるまいし」
「どうっせオレなんて時間も守れないクソガキですよーだ」
いじけたその顔が少しだけ、少しだけ可愛く思えて頭を撫でてみる。案の定怒鳴る。
「ガキ扱いしないでくださいよ!」
「結構単純だよな、狩屋」
「ハア?!」
…そこで神童が部室に入ってきて、続きはお預けになった。ミーティングの間中ぎらぎらとこちらを睨んでいた視線の強さが少し好きになった、だなんてことは、秘密だ。

3.視線
「なぁんでキャプテンばっか目で追ってるんすか」
狩屋の声でハッとする。神童を見つめていた覚えは無いが、なんてことを言うのだろう。「恋人でもあるまいし」唇を歪めて狩屋がニヤリと笑う。
「見てないよ。何を言い出すんだお前は」
努めて冷静に言ったつもりだが、自覚する程声が震えていた。
「見てらんねえよ霧野センパイ、あんたすっごいバカみてえ」
「お前ケンカ売ってんのか?妙な決め付けするな。何が分かるんだお前に」
後輩相手に苛立ちをぶつけた事にじわりとすぐ後悔が襲ってきた。呆れたように狩屋は睨んできたが、それも一瞬で、
「分かるよ、霧野先輩をいつもずっと見てるならね」
首を傾げながら真っ直ぐに、見つめてくる狩屋の目が、どこかでみた自分の青い目とあまりに似通っていた。

4.強欲王のスピーチ
「霧野先輩はまじでオレのこと好きなわけ?ちゃんと?馬っ鹿馬鹿しいよ。なんのためにオレあんたをこんな好きでいたわけ?なんなの神童神童って。あんたホントは甘えさせてくれるなら誰だって良かったんだろ。オレがあんたのこと好きだって知って利用したんだ。ああアホくさい。オレの気持ちがどんだけでかかったのか、知ったらセンパイ後悔するぜ。キャプテンのこと口にしたことさえ間違いだったって言うんだ。ねぇ、まだ間に合うよ霧野先輩。オレに嫌われる前に早く言えよ。オレだけが好きだって言ってみせろよ!」

5.more!
赤外線通信を終え、狩屋は素直に目の前の先輩に礼をする。
「ありがとうございます青山先輩」
「いいよ。それより狩屋は霧野のこと…」
「言いっこなしですよ。一乃先輩のことばらされたいんですかあ」
わああ!と後輩の言葉を遮ると、青山は頼むよと念押しして立ち去った。
青山から受け取ったものはプリクラの画像だった。今の二年が去年お遊びで撮ったものだ。見慣れた顔や見知らぬ顔の中にピンクの髪のあの人が居る。
「…かっわいーわ」
小さく呟いた言葉を、狩屋が本人に言える日はそう遠くはなかった。嬉しそうに綻びた横顔にほんのり赤みが差した。

6.苗字
「霧野、って難しい字ですね」
人のカバンを勝手に開けて勝手にノートを出して、苗字にまで口出しを始める狩屋。天馬にでも言われれば引っかかりはしなかっただろう。こいつの口から出た言葉は、些末なことまで気に障る。
「書けないだろ」
「はい、書けませんよ。だから」
だから?小さく聞き返すと狩屋が(明るい方の顔で)にこりと笑った。
「先輩も狩屋蘭丸になっちゃえば」
「…プロポーズでもあるまいし」
思わず顔をしかめた。その鼻先に狩屋の指。「やっだ霧野先輩!」にやけた顔、どうやら馬鹿にされたらしい!
「プロポーズだって!普通兄弟かとか言うじゃん!」
「自分で変なこと言い始めたんだろっ」
狩屋の口から出た言葉は、本当に些末なことまで気に障る。一乃と青山が「痴話喧嘩だね」と茶々を入れるものだから、意識してしまっていたのだ、尚更。







メトマキ

1.インザスターリーヘル
君を愛していたと、それだけをようやっと思い出したんだ、僕は、マキちゃん。

マキュアそんなの初めてきいた。

僕はメトロンだけど、君はああ、マキちゃんだ。僕はメトロンじゃない、僕はだれなんだ、マキちゃん、愛してる。

マキュア、メトロンこわい。

メトロンじゃない!僕はメトロンじゃない、ねえ僕は、僕はだれなんだ!マキちゃん、マキちゃん!僕を愛しているとねぇ、マキちゃん言って!

マキュア、メトロンなんて、知らない!そんなのさとしじゃ、論じゃない!


広い広い空に散りばめられた星屑は、僕を君を包み込んで、それから薄く笑む白い月、僕は確かにここで生きている。ただし僕は君に愛されない。名前は忘れてしまった。

広い広い空に散りばめられた星屑は、マキュアを論を包み込んで、それから薄く笑む白い月、マキュアは確かにここで生きている。だけどマキュアは論を愛せない。名前は捨ててしまった。

僕は宇宙人だった。

マキュアは人間だった。

2.そらもとべるはずだった
マキ、うちゅーにいきたいのね?それでね、ホシをもってかえるの。さとしにもあげるね。
舌足らずで抑揚過多なあの日の高い声。
僕は一体なんと答えていたっけ。どうしても思い出せない。ちょっと忘れただけ?もう忘れただけ?それとも
「メトロン、何してるの?チャージの時間なんだけど」
「すまないマキュア、今行く」
僕たちは宇宙から来たらしい。なんだか色々朧気だ。

ぼく がマ キち ゃんを
うちゅ うに てを つない で

男とも女とも区別の付かない不思議な声が脳内に響いた。マキュアの抑揚過多な高い声が僕を急かす、走る。

3.未遊泳
ふたりきりの海辺にからんからんと風が鳴る。潮気を含んで吹き荒ぶ、温くてじとじとした夏の雨。僕とマキちゃんはふたりきり。
僕たちはその時確かにどこへでも行けた。ただそれを選ばなかっただけで。
「論、帰りたい?」
「マキちゃんは?」
「論は?」
そして繋がらない言葉。だから僕たちは浜辺でただ手を繋ぎ、高波を眺めて風に当てられて、こころの中だけで大切なことばを囁き合うのだ。
帰る場所を失った僕たちに、マキちゃんは名前だけを与えて、僕をここに連れ出した。僕は論で君はマキちゃんで、世界はそれだけで、残りはただの憂鬱で。
「マキちゃん、帰る場所は、あるの」
「……ない」
僕らがとうとう投げ出した四肢を、果たして誰が攫ってくれよう。

4. 愛だ
髪は水色、そして唇はピンク、白い肌や胸の曲線、しなやかに伸びる手足、声は明るく高く真っ直ぐで、僕は彼女に名前を呼ばれる度に嬉々として犬のようにその声を辿り、ああなんて、なんて尊いきみだろうかと嘆くのだ、胸中、それからうふふ、と(春風のように)笑うところが大好きで、僕の耳をくすぐるそれを、愛より強く、これ以上が無い程に、本当に本当に心の底から愛している、僕はマキちゃんを愛している。







カタールと楽太

1.アイシテル/ビヨン×楽太
あんたが居ないこの世界で暮らしていることが、堪らなく不安なんだ。
…なんて口が裂けても言わない。腕が折れても記さない。
ただオレはここでこうして、温い夏。思い出だけを頼りにビヨンを描いて、口許だけでニヤリと笑う顔を懐かしんで、心地よく蘇るアラビア語の低音に溺れて、ああ。ビヨン、会いたい。また会いたい。
また、あいたい、ビヨン。
まだ不慣れなアラビア語を呟く。彼とオレを繋ぐ呪文になればいいのに、少しだけ、思いながら。…あいしてる。
「ほう、少しはマシな発音ができるようになったな」
いつかの低音が耳元で囁いた。驚いて振り向くとそこには見覚えのあるユニフォーム。
腕を、伸ばす。熱に届く。ビヨンはいつかの笑みで、オレを容易く射抜いた。
愛してる、は飲み込まれた。彼の薄い唇が奪っていった。

2.月に砂漠/ビヨン×楽太
月光は砂の海を柔らかく照らす。オレたちはそこを静かに渡る。
右手はビヨンに預けてあった。半歩先をずんずん進んでいく。置いて行くぞ、と言いながら、左手はさっき差し出された。ビヨンは、優しい。
「…お前に」
「え?」
「お前にここを見せてやれて良かった」
振り向いて口付けて、彼には珍しくはにかむように笑った。
「オレも、ビヨンと見れて良かった」
離れた唇。まるい月だけがオレたちを見ていた。
「いい月だ」
「うん」
またゆっくりと歩きだす。てのひらはじとりと汗ばんでいたけれど、決して離すことはなかった。

3.一生かかっても多分/スライ→ザック
「オマエは本当、明るくていいな」
スライが言った。ため息が布越しに僅かにもれた。
「そうかあ?」
「そうなんだよ」
「あ!スライ、飴食う?」
「…もらう」
市場のおじさんに貰ったそれを、スライの手のひらに転がす。
、と。そのままスライがオレの手首を握ってきた。
「…え、えっなに」
「…別に、なんでもない」
ぱっ、と離される。スライの体温が微かに溶けた。
「なんだよもー!」
「飴、ありがと」
待てよ!…そう言う前にさっさと彼は立ち去ってしまった。

なあスライ。手首、掴んできたときに、お前「好きだ」って呟いたけど、アレなに?どういう意味?
そんなに明るいのがいいなら、スライももっと笑えばいいのに…いや、明るいスライってなんか変かも。
あーあ、今日も熱いな。家、早く帰ろう。

4. ある事の前/ビヨ楽
そうだった。近付いちゃいけなかった。
オレの後悔を聞いてくれる人なんてもういないだろな。
「……寒いんだけど…」
「温めてやる、これから」
近付いちゃいけなかった、好きになるなんて馬鹿だった。
外気に晒された裸の胸をビヨンが好き放題に触れてきて、うわ、ドキドキして、あつい。







ビオデモ

1.ふたりきりのうちに
陽の陰る橋の下、外は眩しい。座り込むふたり。デモーニオにキスをした。ビオレテ、ビオレテ、彼は喘ぐように唱えてオレの頬に手を添えた。デモーニオの頬も包んでみた。上手く笑えているか、お前に見せたい顔になっているかな。それからオレはまたデモーニオの唇を貪る。舌と舌が。デモーニオが苦しそうな声を出す。それでもまだ留まる。デモーニオが流した涙がオレの頬にかかり、やっとキスを止めると真っ赤な顔の彼が居た。何度も彼はビオレテと呼んだ。短い逢瀬だからキスは長くしていたいとオレは思う。デモーニオは名前を呼んでいたいと言う。愛がオレたちの秘密だった。

2. 穏やかな日々
好きで好きで大好きで、寝ても覚めても大好きで、デモーニオ以外もうオレにはありえなかった。つまりデモーニオじゃなきゃ好きになれない、キスしたくない、そういうわけだ。
女の子みたいな可愛い目が特に好きだった。人と話すとき、必ずデモーニオは真っ直ぐこちらを見つめていた。吸い寄せられるようにオレも彼の瞳を見つめた。
「ビオレテ、今日はどこで練習、しようか」
オハヨウの次はいつもこう。頬でもいいから口付けたいのにそれができないオレは自分が悲しいよ。
「デモーニオ」
覗き込むと、ん?と声が返る。
好きだよ、寝ても覚めてもサッカーしても、デモーニオ、お前がいつでも居るんだよ。
きれいな瞳を曇らせること、オレは今日もできそうにない。

3.キスをするならサッカーをしろ!
「キスがしたいんだデモーニオ」
「ドリブルで抜けたらな、ビオレテ!」
彼氏が見ているのはボールではなく俺であるべきなのだけど、デモーニオがそう言うなら駆け出した彼を捕まえて、それから唇を奪ってやるのだ。







尾刈斗

1.献花/幽谷
花がよく似合うひとだ、と直感的に思った。わたしは急いで花屋へ行った。名前や値段もろくに見ず、赤とピンクと黄色に白、花屋の店員さんにきれいな色のを指差しで示す。ピンクの紙で優しく包んでもらう。

わたしが戻ると彼女はもうどこかへ行ってしまっていた。
さっきここにいた女の子は?と聞くと、女の子なんか誰も来ていないよ、と返される。
ああ、またやってしまった。
この花を手向ける正しい場所はどこだろう。
幾度目かの悲しいひとめぼれは、音も立てずに終わりを告げた。

2.素顔に素直に恋をした/黒上×幽谷
「黒上の頭巾の中ってさー」
の第一声を合図に、わたしは部誌を書くスピードを一気にあげた。早くここから出なければ!総評は、ええと、大会に向けてチームの団結力が強まってきました。それでいいか、以上!
「お先に失礼します」
早いところ部誌を監督に渡して、そして帰ろう。とにかくここに居ると危ない。なんというか危ない。
お疲れー、を聞きながらドアを開ける、と。
「いてっ」
く、黒上せんぱい。
「おー黒上!今お前の頭巾の話をだなあ」
月村先輩が声をあげる。黒上先輩はそれを聞き、慌てて部室から出ようとしていたわたしを見て、ニィっと意地悪く笑った。
「幽谷…一緒に、帰ろうか」
「は、はい…」
断るなんてそりゃ死にたいと言っているようなものだろう(黒魔術的な意味で)。
背後で閉まる部室のドア。そうだ、早く部誌を出して…校門辺りで待てばいいか。

…わたしはいつか見てしまった。黒上先輩の、きれいな素顔。
そして呆れることにわたしは、
「おまたせ」
あの日からあなたを。

3.ghost/幽谷→黒上
忘れたでしょうか
喉の奥の奥につかえた言葉が首を絞める。わたしの胸を占める。彼の心が判らなくて。
「黒上せんぱい」
わたしが何も無いところに声を掛ける行為など、みんな慣れているのだろう。何も言われない。まるで無視だ。
黒上先輩がボールを蹴って、十三先輩がそれを捕まえる。
わたしはほんとうならもうグラウンドには居られない。サッカーができない。わたしのユニフォームは灰となり
わたしは、







青一

1.はじめてのこい
何かの拍子にふと顔と顔が近付いて、そうしたら突然青山がオレを叩いた。
「…ごめん」
と一瞬あとに言われたけれど、真っ白になった頭がはじき出した答えは逃げることだった。
「ねえ!一乃!いちの!!」
追いかけてくる声が涙ぐんでいて、なんだよこっちが泣きたいよと思って振り返る。青山と、校舎の白と夕焼け。
「ごめんね、一乃、一乃が好きで、それで」
…いいよ、いいよ、許してあげるよ、だから、オレに、頬に、触れて、それで、それから。

2.へたっぴ
「寝て、起きたとき、死んだみたいな気分になるよ」
「それって…どういうこと?」
「一乃にはきっと分からないよ」
青山はふっと息をつくと階段を二段分飛び降りた。「かっこつけ…」小さく言ったけど聞こえていたみたいで、ムスッとした顔をされた。
「一乃が真っ当なニンゲンだからだよ」
「まるで青山が悪いみたいじゃないか」
…一乃は本当にいいやつすぎるんだよ。青山はそう言ったきり黙ったままだった。震えながら繋いできた手のひらが熱かった。







波久奴花王瑠さん関連

1. オヤスミ、大好きな。/カオルと女の子
早く寝なさいね、おやすみ

カオルの声がドアの向こうで響いた。バタン、と音を立てて鉄のドアが閉じた。
ベッドに身を投げ出す。カオルの声を反芻してみる。高くなく低すぎずの、その声。歌うような言葉遣い。

「わたしはキミに恋したみたいだよ」
「え、え?はあ?!」
「キミが好きだと言ったんだ。何か文句があるかね」
「な、ない、です」

微笑んで身を返すカオル。おやすみ。そう言ってドアの向こうへ。
好きだなんて。ああっあのカオルがあたしを好きだなんて!嘘みたい信じられない、でもすっごく、嬉しい。
好き。その言葉が胸の中でじわりと滲む。
「あたしもカオルが大好きです」
明日の為に1回練習。うふふ、好き、大好き。

2.ことばあそび/カオルと女の子
名前で呼べと重ね重ね言われて重々承知しています。呼び捨てはちょっと気が引けるからカオルくんと呼んでいます。
「カオルくん」
「なんだね」
髪がふんわり靡いて、きらりと音の付きそうなきれいなお顔がこちらを向きました。
「愛でしょうか、恋でしょうか」
「最初から愛だなんて随分ですね」
じゃあわたし、
「恋してます、あなたに」
「残念、わたしは愛してます」
その涼しい笑顔大好きよ。カオルくんがおいでと言いました。わたしはその胸に飛び込みました。

3.まぼろしに好き/カオルとカレンと女の子
「あたしあなたが好きだった」
好きで好きで好きで仕方が無かったの。陳腐な言葉しかあたし知らないから、好き好き馬鹿みたいに繰り返すの。好き好き好き好き、好きだった。
今、カオルくんの隣に居るのは彼とおんなじように髪のきれいな女の子。あたしはそれを遠くに見ながら、あの日の言葉に、頭の中に今も響く声に、カオルくんの思い出に、大切で美しい幻に意識を埋める。
「きみに出会えて良かった」
―カオルくんの隣にはカレンちゃん・あのこが笑ってた。

4.あわあわ
カオルくんを好きな理由は、挙げれば挙げる程水泡のようにふわふわと浮かんでくる。ただし弾けたりしない。シャボン玉みたいに浮遊したあと、飴玉みたいにわたしに溶けていく。
あなたに見つめられること、声を聞くこと、髪がふわりと揺れること。
くすぐられたみたいな気分になる。あなたが好きだと思い知らされる、ね。







他スカウト

1.星に集う/カウカ×楽太
足を投げ出して階段に座る。楽太とカウカは静かに濃紺の
「星空」
を見上げる。
「ああ、きれいだね」
カウカは常につけているゴトラを外し、夏のぬるい外気に頭部をさらした。普段隠している目が現れ、それを見て楽太がにこりと笑う。
「カウカの顔、オレ好きだよ。ずっと出してればいいのに」
「御免被る。オレァ嫌いだ」
天体について熟知していると自負するカウカは、指先で星たちをちょこちょことつつきながら、満更でもなさそうな横顔で言った。
「…ねえカウカ」
「ん?」
「オレが死んで星になったらさ」
カウカは眉をひそめ、楽太に視線を遣る。
「ちゃんと見つけてね」
「…オレを誰だと思ってんだ」
「はは、カウカなら絶対間違えない」
あれがレグルス。あれアークツルス。カウカのことばに楽太はにこにこと頷く。
ほんとうに、見つけてやれる。楽太を見失うことはきっとない。だからこの穏やかな時間よ、秋になっても冬も春もつぎの夏も変わらずに。
…と全て口に出来る程カウカは素直ではなかったから、
「お前が好きだよ」に全てを込めた。楽太は幸せそうにオレも、と笑った。

2.恋占い/カウカ→油田→楽太
「好きって胸が痛いのだな」
「ん、恋ですか油田」
「あーあ胸が痛い」
「無視ですか」
カウカーなあカウカ、胸が痛い。呼びかけてひとりごと、返しても返事はなく。だけどわたしは彼の独白を流せない。我ながら無器用というか、なんというか。
「油田、わたし占星術かじってますよ。恋の占い、いかがです?」
「お、おおカウカ、じゃあ占わせてやるよ」
尊大なところもわたしは決して嫌と思わない。斯くなる上で、ああ、言えたらいいのですが。
「あのよ、楽太はさ、オレのこと―…」
ええ、相性は抜群です。油田、頑張って。どうか(わたしの分まで)お幸せに。お幸せに。

3.どうか、また/サキと日根
あなたとバイバイ、ひとりは嫌い。声はもうサキ、とは呼ばない。日根はもうここには居ない。
わたしのこと忘れたりしないで、いつかまたあの喫茶店でね、誕生日は祝うからね――…嗚咽がみんな溶かしてしまった。
例えばさよならを始まりと呼びたいのなら、相応な運命や切欠が必要なのだろう。
まだ返してもらっていないCDがあった。わたしが返していない小説もある。
日根はあの曲を聞いたらきっとわたしを思い出すかしら。ページをそっと捲りながら。
明日、明日きっと電話を掛けるわ。何コールでもわたしは待つ。待ってしまうでしょう。

4.おぼろにあはは/空中
ねえぼくはどこにいたらねえぼくはだれといたらぼくはどうしたらああああぼくがしあわせにねえねえあああねえなるにはしあわせになるのにあああひつようなのはねえもしかしてもしかしてねえねえなかたにくんなかたにくんなかたにくん
きみなのか?

青ざめた首はもう温かくならない、レンジでチンするにも適さない。
その唇がもう囁かない愛と不条理と某八百を僕は忘れまいと今も反芻し続けている。







大谷と秋

1.彼しか触れてしまえない
秋ちゃんの頭で花が咲いていた。桃色に膨らんだ花弁が可愛らしい。伸びた茎はふにゃりと曲がっているきれいなライン。
腕をもたげ、触れてみようとするとそれは逃げるようにふわりとした。風も無いのに。もう一度。どうしてもそれが欲しかった。だけど指先すら届かない。
「おー、秋!どうした?ソレ」
円堂くんの声がする。顔を上げると、秋ちゃんは既にそちらに駆け出していた。わたしは何故だか動けない。
「なんだあ?これ」
円堂くんが花に手を伸ばす。優しい花に触れようとする……彼のてのひらが花を包む。
へええ、見たことないやこんな花。きれいだなあ。円堂くんが撫でる。秋ちゃんは笑う。わたしは只それを見ているだけしかできなかった。

2. 密やかに唱える昼休み
空模様はコンクリート。うなだれた暗雲は今にも癇癪を起こしそうです。
「降りそうだね」
「今日もサッカー部あるの?」
「あるよー降ったらイヤだなあ」
秋ちゃんの唇がぷく、と突き出す。こんな横顔は初めて見るなあ。(雨降ったら久しぶりに一緒に帰らない?カフェモカが飲みたいなあ)。ああ、サッカーが大好きな秋ちゃんに今、そんな言葉を掛けるのは違うかな、躊躇する。
「つくしちゃん」
「なあに?」
「もし今日部活無くなっちゃったら、良かったら付き合って」
にこりにこり。さっきと一転微笑みながら、驚くわたしを覗いて秋ちゃんがお願いしてくれる。あれれ、すごい。
「わたしも今同じこと考えてた」
「本当?ふふ、じゃあ決まりだね」
あめあめふれふれ。童謡を思い出しながら空に視線を遣る。素敵な放課後が叶ったらいいな。あめあめふれふれ。声に出さずにこっそりと歌った。

3. 女の子のせいよ
自分は変なんだ、と本気で悩む時間が多々ある。秋ちゃんは可愛いけど、優しいけど、だからといってわたしが(彼女に恋して欲しいわたしに)なんて思える意味が分からない。だからわたしは変なの。女の子は甘えあって頼りあってすり寄りなれ合う生き物だけど、それは決してキスするためじゃあないのになのに。わたしが彼女の傍に居る理由。ホントのこと言えない。分からない。だけどどのみち根底には同じ、秋ちゃんに嫌われたくないという切なる願いがある。好きを望まない為の最低ライン。トモダチ的意味合いにも取れる言い訳線。「ダウト」秋ちゃんが大好き、早くわたしにもそう言って。

4.こいののろい
細く軽やかなてのひらに、わたしは幾度か心中しようか、と持ちかけた、こころのなかで。わたしの濁った十年間は彼女から始まったし、今でも気持ちに変わり無いのだ、本当に。わたしは馬鹿だね。
ずっと秋ちゃんの側に居た。耳まで赤くして恋のお話をしてくれたときも。弱気になって大粒の涙をころんと落としたときも。大切な恋を失ったときも。王子様が迎えにきたときも。彼女がわたしに恋をすることはついに無かった。
持ちかけたとしても優しくわたしを救い、留まらせてくれたろうな、わたしのものになってなどとうそぶくわたしを。
わたしの胸に巣くうアメリカ色の花々はわたしから何もかもを養分にするみたいに吸い出して空っぽにして秋ちゃんを微塵も想えないようにわたしをいずれ費やして費やしてこれまでもこれからも十年間を立ち尽くすままにしただけなのであった。







他百合

1.届くべき/春奈→秋
数学のノートに走らせたペンがあさっての文字を書く。木野せんぱい大好き。そうですわたしは、木野先輩が大好き。あの人の優しいところも、気遣いとか、笑顔とか、色んなところがすごく好きなんです。
ただの憧れなんじゃないの?と自問したこともあるけれど、違いました。サッカー部のマネージャーの仕事中に偶然触れ合った指先。そこからわたしの体を電流が駆け巡りました。心臓にびびび、爪先から頭のてっぺんまでバッチリかけられた魔法は恋、あなたのようになりたいです、ううん違います、あなたと一緒になりたいです!
その場で手を取ってアイ・ラヴなんて想像でしかできないけれど、わたしの想いはいつかあなたに届くべき。頑張ります。

2.少女/春奈→秋
わたしの悲しみを聞いてね
「」
彼女がわたしを好きになることは無い、決して無い
息をしているという感覚がここ最近薄れてきている。肺が詰まっているようだ
自分以外の誰かがしている呼吸を聞いて彼女を探してそれから視線

「わたし、もし男の子だったら、絶対木野先輩の彼氏に、なりたいのにな」

いつだったっけ、いつからだったっけ
いいえ関係ない。どのにしろあなたはわたしを愛しません
天使のよう。天使は誰を恋に選ぶの
わたしはわたしはわたしはわたしは

3.理想/春奈→冬花
「見て」
冬花さん、わたしを見てください。
「だめですよ」
「お願いします」
「だめ…」
わたしの目は冬花さんを見る、冬花さんはわたしを見ない。
好きです、冬花さんが好き。だめですか、
「どうしてですか」
「あなたが」
どうしてもこちらを見ない人の手を固く固く握る。振り払われも握り返されもしない。この手を守るわたしになりたいのに、
「あなたが、あなたである限り」
静かに壊れる。

4.哀/大谷と冬花
家庭内の不和や性癖の露呈や理不尽な暴力や集団からの疎外、そういった思春期の大ダメージがいつしかわたしを壊してしまった。わたしが男に恋愛感情を抱けないことを認めてくれたのは、冬花というかつての恋のお相手だけだった。彼女が今、プライドも純潔も失ったボロ雑巾のわたしに手を差し伸べていた。
「つくしさん、なんだか煙草の匂いがする」
冬花の言葉に、わたしは力無く笑ってみせることしかできなかった。薬指に指輪が残酷な顔でしがみついていた。