だってだってだって、すき




 零れた想いは行方を探してさ迷った。「好きです」なんて男に言われちゃった可哀想な風丸さんは、それを拾い上げることなくただ呆然と丸い目をして、僕を見ていた。




 僕は昔から…昔と言っても齢13の僕の昔なんてそれはもうほんの少し前のことだけど、兎に角僕は惚れっぽい男の子だった。
 好きな女の子ができるとわくわくした。可愛いなって見つめるだけでどきどきした。想いを持て余すことは無かった。だってそれ以上は求めていないから。

 中学校に入学してすぐのことだった。僕がそのひとを初めて見たのは。
 きれいだな、と率直に思う。髪がきれいだ、走るフォーム、筋肉の付いたしなやかな足。
 なんてきれいな女の子なのだろう。いつも通りの一目惚れ。
 陸上部に入ろうかな、が入ろう絶対に!に即刻シフト。同じグラウンドに立って、元々好きな短距離走を極めて、かつ彼女を見て幸せな気持ちに!



「……なんて思ってたこともあったんですよ」

 まばたきしながら俯く風丸さん。初めて声を聞いたときのことを思い出す。



 翌日、新入生の部活動仮入部期間に入る。僕は早速陸上部へ駆けた。
 ……そこで新入生たちに案内をしていたのは、昨日の水色の髪をした女子生徒さんだった。とっても、低くて男らしい声をした、胸に膨らみを持たない、程よい筋肉をもった、
「オレは2年の風丸一郎太。よろしくな!」
 一郎太という名前の、……アアなんという勘違い!水色乙女は、まごうことなき立派な美少年でございました。




「でもね、おかしいでしょう。笑っちゃいますよね。僕はまだ、風丸さんが好きなんです」

 あの日から数カ月経った。
 風丸さんが如何に素敵な先輩か、充分理解した。男に恋することがおかしいのだということは、とっくに知っていた、筈なのに。好きは日々募る。初めて恋を持て余す。僕は、あなたと、これ以上を望んでいます。風丸さんにとって僕が、

「風丸さんにとって僕が、好きの対象だったらいいなって、思って、それで」

 壊れそうな左胸の僕。どくんどくんと走る、猛る。
 女の子ではないけれど、僕は風丸さんが大好きで、一緒に居たくて、大切で、風丸さん、風丸さんが好きだ、とっても。

「…宮坂」
「はっ、はい!」
「オレ」

 俯いていた顔が上がる。何かを決め込んだようなその表情に、どきり。

「あ…えっと、オレも」
「…はい」
「オレもお前のこと最初女の子かと思ってた」

 ……ん?え?オレも?オレも、なんて思わせぶりなこと言っておいてそんなセリフをよくも!よくも!

「なっなんですか風丸さん!オレもと来たらオレも好きなんだ!でしょ!」
「わっ、みみ宮坂ごめん、怖いって!そうじゃなくて、違うんだごめん!」
「違うってなんですかっ!」
「女の子かと思って、か・可愛いなって思って、女マネ希望かなって期待して、だけど宮坂は男だった」

 息を吸う、吐く。風丸さんの肩が上下して、

「それでも、宮坂を好きに、なった」

 唇を結んだ風丸さん。真っ赤になってまた俯いて、僕はというとそんな風丸さんを両腕でしかと抱きしめる。

「オカシイですね、僕たち」

 だけど幸せ。本当に変な僕たち。風丸さんは「全くだ」なんて呟きながら、ちゃっかり僕の背中に腕を回し返す。
 零れた想いはあなたにちゃんと届いて、持て余していた僕の恋、あなただけを僕はこれから見るのでしょう。だってこんなに幸せな気持ちは初めてなんです。