アンチ・ヒロイズム




 僕はまどろんで、風丸さんは死んだように眠り、朝は彼にとって無意味なものだった。
 昨日僕とせんぱいは二人でぐちょぐちょのベタベタになった。僕たちの性交は意味をもたない。どろどろした白濁は意味を為さない。
 拙い手付きで僕は風丸さんに触れる。風丸さんも僕に触れる。最初の頃は、憧れだった大好きな風丸さんにそんなところ触られている、と意識するだけで興奮したものだ。すぐに出しちゃったものだ。
 のろのろと慣性で僕と風丸さんはこんなことをしていた。ここ毎日。だけど欲情するのはいつも風丸さんからだった。風丸さんは相変わらずうっとりと行為に没頭していた。しかし僕はどこか醒めた思いでしなやかな肢体を抱いていた。
 朝は彼にとって無意味なものだった。風丸さんはサッカーをしなくなった。



 宇宙人との戦いを離脱した風丸さんは最早僕が憧れていた、なりたかった格好いい先輩ではなくなっていた。
 或る日、弱りきって河川敷にふらふらしていた彼を見つけて僕は呼び止めた。会話中、あんまり弱々しい彼を衝動的に蹴っ飛ばしたりもした(思えばこの時初めて、僕は彼に失望したのだ)。
 帰りたくないというので、共働きで両親不在の僕の家に連れて行くと、風丸さんは狂ったように泣き出す。
 ……えんどう、えんどう、といっていた。
 風丸さんは何があったのかちゃんと話してくれない。分かったのは、彼の頭の中は円堂さんでいっぱいだってことだけ。
 そしてその夜、僕は風丸さんに襲われて、 え ん ど う と呼ばれて、ぐっちゃぐちゃにされた。くたくたになった僕の耳元で、はやくここにいれてくれと風丸さんは喘いだ。僕は興奮半分恐怖半分で、風丸さんを貪った。


 その日から今まで、風丸さんは僕の部屋から出ようとしない。
 暗くなると、互いの顔が判別できなくなると、風丸さんは僕を押し倒す。
 こんな生活が長く続くワケが決して無い。親があまり帰らないからと言って、さすがにずっとこのまま僕の部屋に隠れ続けることはできないだろう。
 …僕は醒めていた。醒めまくっていた。
 憧れてやまなかった風丸さん。世界の中心だった風丸さん。格好いい風丸さん。大好きだった風丸さん。
 全部失った。もう要らない。風丸さんは最早どこにも居ない。

 崇拝はティッシュに包んでゴミ箱へ。そして僕はきっと今日中に、彼を放棄する。
 だらしなく四肢を投げ出す風丸さんは、まだ目を覚まさない。僕は泣きながら裸の背中を蹴飛ばした。







web企画ina√xxさまに提出しました