ゆめのなかの恋




 あなたが幸せになるということは、ぼくが不幸せになるということです。と、いうのも、簡単な話、ぼくがあなたに恋をしているので、 単純にぼく自身の報われ難い思いが成就するか、それともしないのか、ふたつにひとつの・・・幸福が転がる方向の話です。
 走ることが好きです。それは元々この脚がもっていた素質のせいもあり、かつ、あなたもまた走ることを好んでいたことも要因であるといえます。 白いラインが引かれた地面を蹴って、速度に伴い鋭くなる風を感じて、呼吸は研ぎ澄まされて、意識は体を超越して、真っ直ぐ前を見ているのに、 それでも、それでも!あなたの水色の髪が揺れるのを一瞬たりとも逃す事が出来なくて、ピントは綺麗に合致して、 白いラインを踏み抜いて、風が緩慢に凝ってゆき、呼吸は止まる、意識が水色になる、あなたしか、見えなくなる。

 ペース配分を考えず無茶苦茶に走った時と同じ鼓動が、あなたを想うとき必ず現れる。つまりそれは、この恋しい気持ちが 無茶苦茶で、先のないモノだということである。と、思う。分かるのだけれど、ブレーキが利かないのだった。
 そのまま走り続けて行けば、確実にぼくの心臓は擦り切れてしまうだろう。そして、やがて訪れる不幸せ・に打ちのめされて、水色が 焼きついたままの瞳はゆっくりと閉じてしまうだろう。



 目が醒めると、昨日と同じ天井が静かに朝日に照らされていた。
 水色はぼくの瞳に焼きついたまま、もう8年になる。そろそろ、心臓の軋む音が聞こえるだろうか。