「あたし」




今まで気取っていただなんて誤解はどうかしないで欲しい。ただ学校では極力子供っぽい話し方をしたくなかっただけ。
わたし・と自分を呼ぶように気を付けていたことは確かだけれど、ついうっかり口に出た「あたし」にそんなに目ざとく反応する事ないじゃない。

「ふ、ふ、なんか変な感じだなぁ〜大谷はカッとすると素に戻っちゃうタイプってことか」
「・・・東君ったらいやね。あんまりからかわないで欲しいんだけど」

笑顔が引きつっているのを自分でも感じる。それを明らかに見て取って笑う東君に、ワタシ、そろそろ頭キたわ。 事の発端は東君がわたしをからかったことだった。秋ちゃんの話をしているときに、お前本当に木野が好きだなと言われて、なんと知らないうちに真っ赤になっていたみたいで。

「大谷真っ赤なんだけど!ほんの冗談だってぇのに、もしかしてガチなん」
「う、う、うるさいなあ!あたしがそーだったらなんだっていうの!」

これじゃあまったく自分のフォローができていないんだけど、確かに普段あんまり怒ったりしないようにしてるから、気を抜いてしまった。あとは東君のせいにしておこ。

「まぁさ、長い人生そういうこともあるよネ」
「わざとらしく微笑むのやめて」
深呼吸してから切り出す。あたしね。
「あたし、秋ちゃんのこと確かに大好きだよ、本当」
「ふんふん」
「でも恋愛とかじゃないもん、ちゃんと友達だよ」

ふ〜ん、と呟く東君が200ml牛乳パックをストローで吸い尽くす。今更だけど、今日は良く晴れていてよかった。昼休みでみんな外に行っててよかった。秋ちゃんが楽しくマネージャー出来る日で。

「別に俺責めたりした覚えないから、言い訳しなくていいのに」
「なぁに、それ。どういうこと」
「だからね、木野に恋してても別に変に思ったりしないよっていうこと」

テレビで見た将棋の人のように思わず長考してしまう。いや、変でしょう、とやっと言ったけれど、東君のにやにやと笑う顔は崩れない。

「大谷さっきからもう3回以上『あたし』って言っちゃってるよ」
「う」

あたしのペースは次々崩れていく。動揺してる。まずは秋ちゃんにこんな気持ち知られないように気を付けなくちゃ、と決心している傍で東君が言う。

「つまりあんまり隠してたってしょうがないだろ、自分の素直な部分って」
「東君にしては、なんかいいことっぽいこと言うね」
「そこは素直にいいことでいいのに」

青い空の光りがさんさんと窓から降り注ぐ、なんだか洗われたようなさっぱりとした気持ちに気が付く。
秋ちゃんがどんなあたしでも(勿論友達として…でも)好きになっていてくれたらって願う。わざと背伸びしているわたしも、家でリラックスしてるときのあたしも。

「なんか、元気出ちゃったかも、ありがとう東君」
「やっぱり女の子は素直が一番だね」
「やだぁなに褒めてんの?なんかモテたいとか言ってたって聞いたけど、あたし絶対東君には惚れないよ?」
「はあ、可愛くなくなった」

本当に、この日は明るくって良い気持ちで、秋ちゃんに恥ずかしがらずに大好きだよ!って言っても後悔しないだろうなって一日だった。でも、それはまた今度。