病床の白昼夢
呼ぶ声を感じてわたしはそちらに首をもたげる。風子だった。 にこりと微笑んでいた。あ、風子、来てくれたの…言いかけたら消えていた。そこに風子は居なかった。 「希望」 今度は聞き慣れた声がした。理夢。わたしをよく訪ねて来てくれる。片手に、林檎や蜜柑の入ったバスケット。わたしはアルバムを眺めていた。 「理夢、来てくれたの」 「林檎持ってきた。剥くわ」 「ありがとう」 わたしの膝の上に広がる写真たち、その下には彼ら彼女らの名前が踊っていた。 * 「かぜ、こ?」 「違う。ふうこ」 アルバムを持ってきたのは理夢だった。眺めるわたしを傍で見つめている、いつも。 「なんだかこの子が懐かしいの」 「お前はよく懐いていたからね、風子に」 「…そう、なの」 ふわりと金髪が写真の中で踊っていた。彼女を見ているとなんだか、胸が。 * 「ほら、食べて」 「ありがとう」 理夢が剥いてくれた林檎を、フォークで刺して口に運ぶ。 「理夢、さっき風子が来たよ」 「は?なんだって?」 「でもすぐ消えちゃった」 甘い林檎。理夢がこっちを凝視してすぐに、目を逸らした。 「風子に会いたいか?」 「会いたいわ。でも駄目なんでしょう」 理夢が帰った。また来る、と言っていた。靴音が段々遠くなる。わたしはまたアルバムを捲る。さっきの風子の微笑みを見つめた。風子のいるページはもうみんな覚えてしまった。 「もしもし、マキ?」 「あ、理夢。希望はどう?」 「経過は良いらしい。今日も風子風子、だけど」 …そう。と、マキの声が静かに。 「風子はどうなんだ」 「全然。…どうしよう、風子がずっとこのままだったら、マキとか希望とかみんなのこと、思い出せなかったら…」 携帯電話越しでマキがしゃくり上げた。 「大丈夫だから。きっと、大丈夫だ」 「うん、うん…」 一番星の浮かぶ夕焼け空が滲んでいく。 こんな酷いことってない、そう思っても、わたしに出来ることなど殆ど無い。待てども待てども二人は帰って来ない。 |