放課後と夢




新聞部の居残り作業が終わった。廊下を辿って昇降口を目指す。
辺りはオレンジだった。日が長くなってきたな、と春を感じる。涼しい。
なんだかいつもより人気の無い金曜日、2年生の廊下に差し掛かるも、誰の姿も無い。
なんとなく教室を覗きながら通って行く。
E組、D組、C組…B組。
不意にB組に人影を確認する。一瞬足を止め、マズい!すぐにしゃがみこんで隠れた。

教室の真ん中で、キスする先輩たちがいた。女子校だから当然、女同士で。
別に大騒ぎする程珍しいことでもはない。そういう話も無いワケではなかったのだ。
だけどなんていうか、そのふたりは特別きれいだった。後ろドアを僅かにスライドさせて、覗く。
ガラス窓から透けた夕陽が、やんわりとセーラー服を染めて。なにかの絵のような光景に思わずほうっとなる。

こつん。

おとなしく見ていると突然、頭を小突かれた。驚いたけれど、声を押し殺す。
振り返る。仁王立ちの瞳子先生がいた。…すごく怖い学年主任の先生。
そろりと立ち上がり、階段まで颯爽と歩き出した先生の後を足音を立てないように追いかける。



「覗き見なんて趣味が悪いわね、新聞部さん」
「す、すみません…」

返す言葉もございません。
だけどいつもの瞳子先生だったら、早く帰りなさい!って教室に特攻して行きそうなのにな。そんなことを考えながら階段を下りていく。

「早く帰りなさい」
「はい…すみません」

想像の先生と同じセリフで、瞳子先生が急かす。
わたしはなんだか謝ってばかりだ。先生と居ると。

怖いけどきれいな先生。姉御っぽさもあるし、瞳子先生ファンの子はわたしの知る限り結構居た。
よく知る先輩たちに言わせればただのおっかないフットサル部顧問らしい。
だけど実はわたしも先生のファンだった。かっこいいなぁ、いつも思って見ている。

「音無さん」

「はっ、はい!」
「さっき落としてたわ」

そう先生が渡してくれたのは、学生手帳、写真・名前入り。
あ、これで名前呼んだのかなあ。覚えられているのかと一瞬期待、をしてしまった。
その割に新聞部だと知られているのは不思議だ。駆け出し1年記者としては嬉しかったけれど。

「わ、すっすみませんありがとうございます!」
「じゃあね」

かつかつかつ。かかとを鳴らして瞳子先生は職員室の方へ向かった。

「はい、さようなら」


ふと、あの絵画のふたりが瞳子先生とわたしになったところを考えてみる。何の気も無しに、うすぼんやりと。
…ドキドキと心臓が笑い出してしまう。
ダメダメ!これはいけない!
びっくりしただけだ、びっくりしただけだ!そして余りに先輩たちがきれいだったせい!
頭から邪念を振り払おうと頑張るも、それはなかなか消えてくれない。

(このままじゃ、すきに、なっちゃう)

なかなか消えてはくれなかった。