クリスマス・ツリーの夜




 街の中心部にある巨大なクリスマス・ツリー、その光の届かぬ場所でデモーニオをオレは抱き締めていた。賑わうイルミネーション通りから外れてこんなところに来る人などオレたち以外には居ない。ロマンチックを求める人と人とが手を繋ぐべきなのはここではない。
 厳しい寒さにオレたちの安い防寒着が勝てる要素は見つからない。昼はサッカーをするから問題ないのだが、皆が続々帰り、ぽつんと残るデモーニオとオレがすることと言えばサッカーじゃなくて恋愛なのだ。

「ビオレテは温かいな」
「デモーニオの方が温かい」

 力を込めれば同じように返ってくる。囁く声が白くふわふわと昇っていく。デモーニオはほんとうに温かい。彼が好きで好きで堪らない。
 家に帰ったってご馳走やケーキ、プレゼントなんてどうせ無い。デモーニオもそう、先に帰ったビアンコだってロゼオだって他のみんなもそう。自分の家が嫌いなわけではないけれど、悔しかった。

「…プレゼント、なんも無いよ、デモーニオにやれるもの」
「そんなの、オレだってそうだ」

 言葉を無くしてふと夜空を見る。と、デモーニオも同じだったらしい。頭がぶつかりすれ違う。

「あた、ごめん」
「はは」
 どちらともなくオレたちは離れる。
「なあビオレテ」

 ぱちりとしたデモーニオの瞳がオレを見上げた。長い睫毛が震えている。そんな些細な瞬間さえ愛おしい。

「プレゼントより大切なのはさ」
「ん?」
「ビオレテが、隣に居てくれる、ことだから」

 デモーニオの頬がピンクに赤に、イルミネーションに照らされたように彩られた。触れると冷たい。キスをしてそこに柔らかい熱を。口内の熱が心地よい。

「オレだってデモーニオが居てくれたらそれでいいよ」

 離れた唇を緩めて微笑んだデモーニオ、オレの一番好きな人。


「デモーニオ、通りに出てイルミネーション見に行こう」
「あっ、ああ!」

 手を取って連れ出すと眩い光の海。思わずてのひらを繋いだまま、オレとデモーニオはクリスマスツリーの回りをぐるぐると巡った。きれいなきれいな夜だった。