息をしたかった




 よく分からないまま俺たちは出会って、よく分からないままグラウンドを一緒に駆け回って、よく分からないまま宮坂は俺にカミングアウトをした。僕、風丸さんが好きなんですよ。へえ何、お前そーいう趣味なワケ。違いますよ風丸さんが好きなんです!あいつの真っ黄色な頭の中身を俺は未だに理解できない。
 マックでも風丸さん、スタバでも風丸さん、ドンキホでも風丸さん。あとメールでも風丸さん。マジで好きなんだなあ、感心しつつもやはり複雑な気分になった。
 風丸一郎太は確かに魅力的な人間だから彼を好きになる気持ちは大いに分かる。しかし宮坂がどんなに想っても越えられない壁はたくさんある。それを理解しているのかいないのか分からない。ただあれだけ依存していて大丈夫なのかと思う。平和な緑の瞳があまりに一途だったことが、宮坂を考えると最初に浮かんでくる。

「風丸とどこか行ったりしないわけ」
「だってデートなんて僕怖いんですけど」
「じゃなくて普通にしてりゃいいじゃんか。俺と出かけるみたいに」
「佐久間さんは風丸さんじゃないでしょう」

 そりゃそうだけど。少しむっとした俺に「ねえどうしましょう」とあの緑の目が真っ直ぐに向けられる。どうせ何を言っても恥ずかしいだの風丸さんにそんなこと言えないだのとのたまう。じゃあなんだ、念でも飛ばして言えばいいじゃん。それいいですね!バカか。
 宮坂がカフェラテをストローで吸い上げる。もしもここにいるのが俺じゃなくて風丸だったら宮坂は何を喋るのだろう、いつもみたいにグラスにガムシロップを3つも入れるだろうか、俺と居る時より余程楽しそうに笑うだろうか。消えていくブラウンを眺めて思わず笑いそうになる。ごめんだ、同じ気持ちを抱えたくない。弟分みたいなのが自分じゃない誰かに尻尾を振ることに、寂しさ以上にバカみたいな感傷を見出す必要は無いのだから。

「なあもし風丸と来てもガムシロそんなに入れるの」
 子犬が顔を上げるみたいに。瞳に覗かれる。
「えっ関係ないですよー。佐久間さんってたまに変なこと言いますね」

 恥ずかしいのとアホらしいのと、少しだけ安心する意味不明、変なことくらい自分で分かっている、痛いほど分かっている。分かっているからこそ「俺にしろよ」なんて冗談でも言えないし、ああもう、いい加減お前も気付けよ。