午前五時




 りりりりりりりりん
 携帯電話が激しく鳴いた。それに驚いて、持ち主の瀬方が飛び起きる。ルームメイトの下鶴も同じく起き上がったが、ぱとりおっとなんちゃら…呟いてまたベッドに沈没した。
 フリップを開く。午前5時の文字がまず目に入った。
(電話とか、こんな時間にふざけんな)
 回らない頭が通話ボタンを押せよと命じる。従う。

「もしもし…」
 せーーのっ!
 少し離れたところから高い声。マズい!耳を離せ!瀬方がそう思う刹那、危惧は無駄となる。大音量がダイレクトに彼の耳に
『『りゅ〜〜〜〜いちろ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!』』
 飛び込んできた。

「おいっ!うるせェぞ!」

 負けじと大声で瀬方も応じるが、すぐにハッとする。下鶴を起こすのは悪いだろうな、と。
 キーンと残る余韻に恨めしさを感じつつ、瀬方は低く声を抑えることにする。

『やっほー!元気?』
『こんばんは〜!あっ!おはようかなもう』

 非常識な電話のお相手は、気心の知れた仲間だった。マキ、それと武藤。
 マキの脳天気な、武藤の相変わらずすっとぼけた声音に苛々としながら、瀬方は答える。

「なぁにが元気?だ。今何時だと思ってんだ?」
 すると、ウッ!と声がした。
『隆が寂しいと思って…かけたのに…』
『あー!隆ちゃんが論泣かしたー!』
「嘘泣きだろ!」

 うっうっ、という声が、瀬方の指摘でピタリと止む。

『隆、砂木沼さんは元気?ちゃんご飯食べてる?練習大変?』
「ああ、お元気だ。飯はたくさんあるし美味いし、練習は…キツいけど」
『瞳子おねーちゃんは?』
「元気元気。まさに鬼監督」

 マキが騒ぎ、武藤が笑い、瀬方がわあわあと突っ込みを入れる。最早瀬方は小声にするのを忘れていた(下鶴はぐっすり眠っていた)。

『隆ちゃん』

 ふっと静かになったとき、マキが優しげに呼んだ。

「ん?」

 瀬方が返事をすると、せーの!無しでふたりの声が揃った。

『『がんばってね!』』

 瀬方が「ああ、ありがとう」と返すと、ぎゃあー、隆ちゃんがお礼言った!などと騒ぎ声が起こる。



 それからもう少し話をして、瀬方はちょうど良いかもと、布団から出た。
 マキも武藤も、砂木沼さんとまた一緒に戦いたいな、隆ちゃん羨ましい。そんな風に零していた。

 これは人の為じゃない。自分が世界と戦うための挑戦だ。
 だけど、彼らの悔しさを。思いを。こうして電話で応援してくれる優しさを。
 瀬方は大切に受け取った。彼らの為にも!誓って思う。

(…絶対、勝つ)

 ネオジャパン、そのユニフォームをぎゅっと掴んだ。試合はあと数時間後だ。