覚めない夢を望んでる




 ああ、透明なあなたの涙が頬の紅色を滑り落ちる。
 きれいね、と声に出さずにわたしは思い、あたたかなあなたの皮膚を撫でる。秋ちゃんの涙がわたしのてのひらを濡らした。わたしはそれを舐めた。

「秋ちゃん、いいのよ。わたしが幸せにしてあげるんだから。大丈夫だから」
「違うの、ひくっ、違うの」

 秋ちゃんが泣きながら。わたしは彼女の両頬に手を添えて、秋ちゃん、大丈夫よ。赤子をあやすように呟いた。
 秋ちゃんは、秋ちゃんは彼を失ったかわいそうな女の子。彼とふたりで幸せになる夢を、なる術を、なる資格を、無くしてしまったかわいそうな。
 だから最初からわたしだけ見ていてくれたら良かったのにな。わたしは決して間違えない。秋ちゃん以外見たくもないから。

「すき、すきなの秋ちゃん。知っていたでしょう?」
「…うっ、ひっく、ううん、つくしちゃんは、」

 つくしちゃんは?

「違うの、そういう好きじゃないの」


 泣きじゃくる秋ちゃんを胸に抱き留めた数時間前のわたしを秋ちゃんはきっと本当に頼りにしてくれていたのでしょう。秋ちゃんは最初にわたしの許へ彼女の辛いはつ恋の終焉を伝えに来てくれました。彼女を愛したわたしは愛情の全てを込めて秋ちゃんを抱きしめました。その一時にだけわたしと彼女の想いは通じ合い、しかし次の一瞬間に彼女は本来愛していた彼を思い出しやはり泣いたのです。閃光のような一瞬のわたしの恋愛の成就、理想、夢の総て。
 その時間、彼女の涙の味、体温声帯毛髪気配秋ちゃん秋ちゃん、ア、暮れ泥む。このまま、このまま、わたしは枯れるまでその時間に身を投じていたくて。









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