恋と呼ばずになんと呼ぼう





 好きな女の子がいた、ことはあった。
 女の子に好きだと言われたことは無い。ボクから告白なんて恥ずかしくてできない。
 つまりボクは誰かと付き合う、なんてことになったことは無い。…まあ、まだ14歳なんだからフツーだよね。
 そんなボクが、まさかこのボクが…男に告白されてしまう日が来ようとは!
 奈良の諸神様仏様も鹿さんたちも、こんなこときっと思し召されなかっただろう。

「中谷くんが好きなんだ」

 クール先輩がにこりとも笑わずボクを見詰める。
 2、3拍置いて、いつもの「嘘だよ」を待つのだけれど、4拍5拍。あれ?来ない。

「…嘘、ですよね?」
「僕が嘘を吐く人間に見える?」

 ははは、よくもまぁぬけぬけと。半ば呆れていると、クール先輩は笑顔を輝かせてボクの顔を覗き込む。…近い近い近い!

「中谷くん、お返事は?」
「へ、へんじ…?」
「だから、僕がキミを好きなんだ、って言ったの。お返事は?」

 返事?なんのことかは大体分かるけど、分かっちゃダメだとボクの本能が叫ぶ。誤魔化せ!

「返事が、要るんですか」
「え?要らないの?いいの?」
「…いや、やっぱダメです」

 ワケの分からないこの宇宙人を一体どうしたものだろう。ボクは大いに悩んでいた。
 好きだよ中谷くん!ボクも好きですクール先輩!そんなやり取りをしたとして、果たして一体何がどうなるのだろう。
 悶々と悩んでいるとなんだか苦しい。こんな思い、あなたと出会わなければしなくて済んだのに。

「…奈良に帰りたい」
「え!もうご両親に紹介してくれるの?」

 緊張するなあ…。もじもじするクール先輩にあびせげりを差し上げたい衝動を押さえながら、ふと思う。
 好きなんだ、とクール先輩に言われてボクはイヤですだの嫌いですだのと返せるだろうか。
 答えはどうしてもノーだった。
 おかしくってハハハ、と笑うと、ボクがどうして笑っているのか知りもしない筈のクール先輩まで笑いだした。
 苦しくって幸せな、一体全体不思議な気持ちのその正体を、