とうめい




 実在しない人間が好きなんだ、と言われたとき、僕は当然言葉に詰まった。
 何も言わないでいると今度は気詰まりなものだから、「どういう意味ですか?」そのまんま聞いてみた。
「オレのことが大好きな中谷くんが好きなんだ。キミがオレのこと、好きじゃないって知ってるよ」
 冗談めかしてこの人は、僕に好きだ好きだと言っていた。僕はそれを信じなかった。僕も好きです、なんて言えなかった。ただでさえ恋愛に億劫なのに、友情にさえ逃げ腰なのに、男に恋する・されるなんていきなり無茶だろう?

 この人は僕の夢を見る。僕の言葉で醒める夢。ただし言葉は永劫紡がれることは無いだろう。彼が好きなのは僕であって僕ではないのだから、ほんとうの僕はできたら透明になって消えてしまいたい。