クリスマスライト、イルミネーションナイト




「お願い!お願いです風丸さん!」
「だからなんでわざわざ今日なんだ!」

 離しても剥がしてもついて来る宮坂としばらく続けている押し問答、テーマは、

「おう風丸、宮坂。なに痴話喧嘩してんだよ!」
「速水は黙ってろ!」「マッハ先輩は黙ってて!」

 ・・・ハッピーアイスクリーム、テーマはクリスマス、それとイルミネーションにデート。

 稲妻町のクリスマスも、電球だ装飾だサンタクロースだと世間同様美しく浮かれる。ツリーがあって電飾のきれいな場所は当然、聖夜のデートスポットに変身する。そんなロマンチックは男と女がするものなのだ。今年のクリスマスも例年同様、自宅で家族とケーキをつつくものだと思っていた、筈なのに。

「風丸さぁん、お願いですよう」
「お前今日が何の日か分かって言ってるのか?」
「付き合ってるんだからクリスマスはデートするんです!」

 だって男女のカップルだらけだぞ、地元だぞ…という反論なら何度もした。その度宮坂も反撃してくる。でも!・だって!を飛び交わし、オレたちは一進一退の攻防を繰り広げていた。
 オレがもし女子だったら当然喜ぶ筈なのに。宮坂との関係も秘密になんてしないのに。クリスマスは意地悪だ、胸中、ひとりごちた。



 …それが朝の部活前のこと。

「で、」

 西の空がやや橙を残す時間になって、宮坂に投げ付けられた時間と場所に、それでもオレは足を運んだ。
 好きだけど、恥ずかしい。でも、一緒に居たい。宮坂には勝てない。宮坂が想ってくれる気持ちに応えたい。…なんて。
 部活で汗ばんだ肌を軽く洗い、袖を通した服は一番気に入っているものだった。さて。

「結局来たんですね」
「なっ…怒るなよ宮坂」
「怒ってなんかないです」

 尖った唇。あれだけ嫌だと言いながらのこのことオレはやって来た。ごめんな、と言うと別にいいですと返ってくる。
 前を歩いていた宮坂が、ふいにくるりと此方を振り返った。

「風丸さんって、寒さ強いんですか?」
「え?」
「手袋もしないんだから…」

 白いためいきをふっとした宮坂が、自分の手袋を外す。そのままオレの右手のひらを掴んだ。無言でにこりとする。

「風丸さん、顔赤いです」
「悪い、か」

 遠くに目指すイルミネーションたちが見える。涙でそれがぼやけるのは、宮坂のせいなのだけれど、ひとまず悟られないように。きらきらと瞬くのを見ていると、昼間の悩みが消し飛んでしまう。
 だって宮坂に隣に居て欲しいと望むのは、他でもないオレだけなのだから。